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  • 執筆者の写真百束 比古(HYAKUSOKU HIKO)

その8 超薄皮弁の開発に関わった留学生たち

更新日:2020年8月9日

1988半頃、松本において信州大学形成外科の広瀬教授(故人)が主催された学会で招待講演された中国の楊先生(故人)がとんでもなく薄い皮弁を見せた。しかし、その正体は不明で本当にうまくいっているのか疑問が残った。


楊医師による恐らく松本で発表された超薄皮弁(上:皮弁のデザイン。下:熱傷後瘢痕の頬部に移植後。)


一方、1989年に日本医大形成外科に中国から女医さんが一人私の英論文を読んで留学したいと連絡が入った。しかし、丁度天安門事件がありビザが降りないとのことでない話だったと思っていた。所が翌年春、突然その女医さんがひょっこりやって来た。その人の名が後に中国No/2の形成外科医になる「高建華Gao Jian-Hua 女史」であった。早速私は松本で見た薄い皮弁について聞いてみた。すると、実際に症例があれば一緒にやりましょう、ということになった。しかして、その皮弁は通常の有茎皮弁ではあったが、先に行程薄くしてまさに植皮のようであった。結局私の解釈は植皮と皮弁の合体であり、当然植皮の部分の生着は不安定であった。なんかしっくりしないまま、私はシドニーに留学することになった。高先生はまだ日本に残るということになり、1年間のお別れとなった。これが私と高先生のその後の運命を決めることになろうとは、誰も想像しなかったと思う。

シドニーで師事したのは若き形成外科医ペニントン博士であった。彼は既に腱の縫合法でペニントン法、遊離筋膜皮弁など新進気鋭の形成外科医であった。薄い皮弁の写真を見せ、末梢部の血流がもう一つというと即座に末梢部に血管束を付けてマイクロサージャリーで血管を繋げばいいじゃないかという目から鱗のアドバイスをしてくれた。もとより高先生も私もマイクロサージャリーは得意だったので、帰国してすぐに3例の成功例を得た。そして英文誌に投稿するに当たってペニントン博士がEditerにこれは素晴らしい画期的な論文だから特急掲載させてくれ、と連絡してくれたおかげで投稿してたった1ヶ月で掲載された。果たして世界的な反響は大きくブラジルからまで依頼原稿が来た。

(超薄皮弁に関する最初の英論文)

Hyakusoku,H.and Gao,J-H.:The "super-thin" flap. Br.J.Plast.Surg., 47:457-464,1994.

Hyakusoku,H.,Pennington,D.G.and Gao,J-H.:Microvascular augmentationof the super-thin occipito-cervico-dorsal flap. Br.J.Plast.Surg.,47: 470-476,1994.

(ブラジルからの依頼論文)

Gao,JH.,Hyakusoku,H.Inoue,S.,Aoki,R.,Kanno,K,.Akimoto,M.,Hirai,T.Fumiiri,M.,Luo,JH.:Usefulness of narrow pedicled intercostal cutaneous perforator flap coverage of the burned hand .Burns.,20:65-70,1994

Gao,J-H.,Hyakusoku,H.,Luo,J-H. et al.: El colgajo occipito-carvico-hombro(OCH) con pediculo edtrecho, para la reconstruccion de cara y cuello. Cirgia Plast.ica Ibero-Latinoamericana,21:127-141,1995.

以下の症例は私と高先生が、日本で施行した超薄皮弁。末梢部の表皮壊死が発生したが、ほぼ生着した。この経過をPennington 先生に見せたところ、末梢部に微小血管束を付加してマイクロサージャリーで血管吻合したら表皮壊死は避けられる、とのアドバイスをされた。左:術前の皮弁のデザイン。中:術後2週間の表皮壊死の状態。右:術後3ヶ月の状態。表皮壊死部は瘢痕治癒した。






その後私は数十に及ぶバリエーションを考えて手術症例を重ねた。その成果は2002年の英文論文にまとめた。

(超薄皮弁についての纏め的論文)

Hyakusoku,H., Gao,JH., Pennington,D.G.et al.:The microvascular augmented subdermal vascular network (ma-SVN)flap: its variations and recent development in using intercostal perforators. Br.J.Plast.Surg., 55:402~411,2002

Ogawa,R., Hyakusoku,H., Murakami,M.et al.: An anatomical and clinical study of the dorsal intercostal cutaneous perforators, and application to free microvascular augmented subdermal vascular networtk(ma-SVN) flaps. Br.J.Plast.Surg. 55:396-401,2002(小川医師は私の後継として現在日本医大形成外科大学院教授になっている)


シドニーで私が撮影したオペラハウスとハーバーブリッジ。




左写真左から、王春梅東莞康華病院院長(日本医大形成外科医学博士)私、高建華南方医大教授(同じく)、小野真平現日本医大形成外科准教授 右写真右:私(45才時)左:ペニントン博士、



ハノイ国立熱傷研究所にて。左2番目から、ビン先生、一人おいて水野博司現順天堂大学形成外科主任教授、青木律現美容医療協会理事長。

一方2000年のある日ハノイの国立熱傷研究所所長のTrungという教授から「国中の熱傷患者が集まって酷い瘢痕拘縮が大勢いいるが、従来の植皮だけでは良い結果が得られない。先生の超薄皮弁を教えてくれないか」、という手紙が来た。そこで、私は中国で学会がある帰りに行って手術をお見せしましょう、と返信した。それが縁で若い形成外科医であったVinh医師を国費留学で来てもらい、学位まで出して帰国させた。そのビン先生がその後超薄皮弁で東南アジア一の熱傷再建外科医となって、現在当研究所の副所長に君臨している。以上が私の超薄皮弁に纏わる歴史の主要部分である。

以下は微小血管付加OCD超薄皮弁の代表例。上左:頸部熱傷後瘢痕拘縮に対して前医で不完全な植皮をされて顔が上を向けない状態。上中:微小血管付加OCD超薄皮弁のデザイン。上右:皮弁の挙上、矢印は肩甲回旋動静脈。下左:微小血管付加OCD超薄皮弁の模式図。下中:術後3ヶ月の側面像。下右:同正面像。



では次回では超薄皮弁の種類など実際の症例とともにお見せする。

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